特集ワイド 最低賃金と省力化
上昇率、ペースアップ
政府は遅くとも2030年代前半までに、最低賃金の全国平均を時給1500円にする目標を示している。目標を見据える中、最低賃金の引き上げ幅は近年、大きくなっており、中小企業・小規模事業者がいかにして賃上げ原資を確保するかが課題だ。原資確保の手法の一つは「省力化」。警備業は、政府による省力化支援の対象業種となっており、取り組みの推進が期待される。
最低賃金は、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の下限。違反すると50万円以下の罰金が科されるとともに、未払いとなっている差額分を支払う義務がある。
最低賃金は都道府県ごとに定められ、法定3要素(労働者の生計費、賃金動向、企業の支払い能力)を考慮して毎年、改定が行われている。改定の目安を示す中央審議会(厚生労働大臣の諮問機関)、実際の額を決める地方審議会(都道府県単位)ともに、労働者側、使用者側の委員と、中立の立場である公益委員で構成されている。
物価高などを受けて、最低賃金の上昇は近年、ペースアップしている。引き上げ率(額)は全国平均で2023年度は4.5%(43円)増、24年度は5.1%(51円)増となり、25年度は6.3%(66円)増で過去最高を更新。粗利益に占める人件費の割合を示す「労働分配率」の高い中小企業・小規模事業者の経営を圧迫する要因になっている。
改定された最低賃金をクリアするために、賃上げが必要となる労働者の比率を表す「影響率」は上昇が続く。従業員30人未満の事業所では、23年度に2割を超え、24年度にはこれまでで最も高い23.2%となった。
都道府県別最低賃金の最高額と最低額の差は、人材流出に対する地方の危機感を背景に縮小傾向。25年度は203円(最高=東京の1226円、最低=高知、宮崎、沖縄の1023円)で、前年度から9円縮まった。
地方審議会で順次答申
最低賃金の26年度改定では中央審議会が7月28日、全国平均で55円、4.9%引き上げて時給1176円とする目安を示した。上げ幅は物価上昇率の鈍化などを受け、6年ぶりに縮小したが、高い水準をキープした。
目安は、都道府県を経済状況に応じて分けたランク(A〜C)ごとに示され、Aの6都府県は54円増、Bの28道府県とCの13県は56円増。格差解消の観点で地方の上げ幅が大きくなった。
都道府県ごとの地方審議会では目安を参考に議論。改定の答申を順次、各労働局に行っている。8月25日時点で36都道府県が答申を行い、目安通りが13都道府県(北海道、東京、神奈川、長野、岐阜、三重、滋賀、大阪、兵庫、奈良、和歌山、広島、香川)、目安超えが23府県となっている。
目安超えの上乗せ額は1円が10県(栃木、群馬、埼玉、千葉、富山、静岡、愛知、岡山、徳島、福岡)、2円が3府県(新潟、京都、山口)、3円が4県(秋田、石川、福井、島根)、4円が3県(宮城、鳥取、愛媛)、5円が1県(福島)、6円が2県(茨城、宮崎)。昨年度は11県で10円以上の上乗せ(最大18円)が行われたが、今年度はこれまでのところ、落ち着いた動きになっている。
地方審議会では、新たな最低賃金の発効日も決める。昨年度は11月以降が27府県にのぼったが、今年度のこれまでの答申では、ほとんどの都道府県で例年通りの10月中だ。
こうした傾向には、中央審議会が示した考え方が反映されたとみられる。考え方の主な内容は次の通りとなっている。
▽近隣県などとの金額の比較だけで地域の最低賃金を決めることや、最下位を避けたいという動機から地域の実態と乖離した引き上げ額を導き出すことは適切でない。
▽示された最低賃金だけをとらえて「高すぎる」「低すぎる」との批判が生じることは適当でない。目安に大幅に上乗せをするのであれば、判断理由を地方審議会の公益委員見解などで明らかにする。
▽25年度の地方審議会の一部では、開催を予定していたものの、審議せずに日程を延期する動きもみられた。これが仮に、他地域の審議結果のみをもって、当該地域の最低賃金を決めたいとの意向によるものだとすれば、決め方そのものへの疑義を生じかねない。
▽発効日は最低賃金法で「公示の日から起算して30日を経過した日(30日経過後で別に定める日があるときはその日)」とされている。指定日発効とする場合は、その必要性について広く理解を得られるかなどの観点から、地方審議会の公労使委員間で十分に議論して決定する。
▽発効日を、大幅な引き上げ額を確保するための過度な交渉材料とするべきではない。支払いのための準備期間を主な理由として指定日発効とする場合は、賃金原資の確保や給与規定見直しなどに要する具体的な期間について議論を行う。
「省力化ナビ」に警備業
警察庁が策定した「警備業における省力化投資促進プラン」は2026年度にスタートした。政府が人手不足の深刻な業種で省力化を支援する取り組みの一環。警備業のプランでは、「最低賃金=全国平均1500円」を見据え、労働生産性を29年度までに25%向上(24年度比)させる目標が設定されている。
各地の警備業協会は関連セミナーを開いている。山形では8月25日、青年部会(松田大輔部会長=山形警備保障)が企画運営し、約40人が参加した。講師を務めた全国警備業協会の小澤祥一朗総務部長は、警備業が追加された「省力化ナビ」などについて説明した。
省力化ナビは、中小企業基盤整備機構が運営する無料ウェブサイト。画面表示のイラストを選択することで自社の業務課題を見える化し、具体的な解決策を知ることができる。業種ごとの省力化事例も掲載されている。
警備業は6社の事例が掲載。上・下番報告、配置シフトの作成、警備員教育、法定備付書類の管理での省力化実現や、行動認識AI・交通誘導システムの導入例を紹介している。作業時間の短縮、手間の軽減のほか、警備品質向上やヒューマンエラーの減少につながったという。
小澤氏は、省力化ナビを使うことで、関連補助金の採択審査で加点が受けられることを説明。全国に設置されている「生産性向上支援センター」の活用も呼び掛けた。
山形のセミナーでは2社(ジャガーノート、GMOペイメントゲートウェイ)によるバックオフィス業務省力化のプレゼンテーションも行われた。
業務改善助成金
国の「業務改善助成金」は、事業場内で最も低い賃金を50円以上引き上げるとともに、生産性向上に資する設備投資を行った場合に助成を行う。中小企業・小規模事業者が対象で、助成金は30万円〜最大600万円。2026年度は9月1日から申請を受け付ける。
助成上限は、事業場内最低賃金の引き上げ額(50円、70円、90円コース)や引き上げる労働者数(1人〜10人以上)によって決まっている。
助成対象の設備投資は機械・システムの導入や経営コンサルティングの活用などで、助成率は事業場内最低賃金が1050円未満で5分の4、1050円以上は4分の3となる。
助成金は、賃上げコースの助成上限と、設備投資費用に助成率をかけた金額を比較し、低い方となる。例えば、事業場内最低賃金が1040円で労働者8人の賃金を90円引き上げ、600万円の設備投資をした場合では450万円が支給される。
申請期間は9月1日から、新たな都道府県別最低賃金の発効日前日と11月30日のいずれか早い日まで。賃上げは9月1日から発効日前日までに行う。助成金交付決定前に設備投資を行った場合は助成対象にならない。
問い合わせは業務改善助成金コールセンター(電0120・366・440)。


