特集ワイド 「特別講習」学びやすく
「特別講習」は、専門知識と技能を身に付け、試験に合格すると国家資格の警備業務検定を取得でき、活躍の場が広がるほか、キャリア形成にもつながる。一方、警備員の高齢化や受講者数の減少など大きな転換点を迎えている。幅広い年代が挑戦しやすい環境づくり、手続きのデジタル化や実技・教本の見直し、eラーニング導入など講習の改善が進んでいる。
デジタル化で利便性向上
警備員特別講習事業センター(事業センター)は、全国の警備業協会を通じ、警備員検定の資格取得に向けた特別講習を実施している。対象は、施設警備、雑踏警備、交通誘導警備、核燃料物質等危険物運搬警備、貴重品運搬警備の5種類で、それぞれ1級と2級を設けている。
講習の運営で、大きく進んでいるのが申込手続きのデジタル化だ。2025年度から申込手続きの本格的なデジタル運用に移行しており、26年内には全都道府県で運用が始まる見通しとなっている。
新システムでは、事業者登録から仮申込み、本申込み、受講料の支払い、訓練用資料や教本、受講状況証明書(受講票)のダウンロードまで、申込システム上で一連の手続きを行えるようになった。
従来は、申込システムに受講者情報を入力後、別に受講申込書を作成し、PDFファイルなどでアップロードする必要があった。各都道府県警協は、システムに入力されたデータと受講申込書の両方を確認しなければならなかったが、入力作業の一本化で、申込者と協会双方の負担が軽減された。一方で氏名や住所などを誤って入力すると、その内容が修了証明書まで引き継がれるため、申込時の正確な確認が必要になる。
また、システム運用開始当初は「メールが届かない」「訓練用資料の保存場所が分からない」「資料を閲覧できない」といった問い合わせが相次いだ。このため、メールが届かないトラブルには、事業者登録後などに送られるメールが迷惑メールとして扱われにくくなるよう送信設定を改善した。資料の保存場所などの質問には、申込システムのトップページにQ&Aを設け、対応方法を掲載した。
こうした改善により、サポートセンターの電話での問い合わせ件数は、3月の1510件から4月994件、5月635件へ減少した。電話窓口の担当者も当初の2人から5人に増員し、応答率は3月の50%から4月87%、5月89%へ上昇した。
受講状況証明書についても、これまで受講者の氏名しか記載されておらず、協会側が会社ごとに仕分ける際に苦労していたことから、会社名も記載するよう改修を進めた。
システムの改善と並行して、講習そのもののデジタル化も進められている。学科講習の一部をeラーニングで実施するため、コンテンツなどを作成中で、27年度の運用開始を予定する。これに伴い、講習カリキュラムも変更する。合否結果のメール通知や修了証明書のダウンロードにも対応する予定だ。
一方、協会担当者が申込システムの操作に、まだ不慣れなこともある。25年12月には47都道府県を対象に申込システム説明会を開いたが、一斉開催だったため、参加者が質問しにくい面があった。これを踏まえ、26年8月中旬からは全国を5〜6ブロックに分け、10人程度の単位で申込システム研修会を実施する。画面を共有しながら、双方向で質問や意見を交わせる形にする。今後、操作方法の説明映像も作成し、申込システムのホームページで公開する予定としている。
受講者の確保に向け、今後は申込方法をさらに簡略化し、より分かりやすい申込システムへの改修を進める。
警備員特別講習事業センター・邨田昌英業務部次長の話
特別講習は今、本当の変化のタイミングにあります。資格を取得して終わりではなく、合格者が学んだ内容を各社内で教える役割を担っていただきたいと思います。人に教えることで本人も改めて勉強し、会社全体のレベルアップにもつながります。協会の研修や管理者向けの講習に参加し、現在の制度や講習内容を学び続けてもらいたいです。
熱中症対策を徹底
特別講習では受講者の熱中症を防ぐための対応も進められている。ファン付きウェアの着用や講習中の飲料摂取を認めるほか、サングラスについても屋外では一律に禁止しないなど、講習の実施に支障がない範囲で受講者の熱中症予防を図る。
事業センターは5月25日、都道府県警協に対し、「特別講習における熱中症対策の実施について」を通知した。熱中症の予防と重篤化防止に向け、前年度に示した体制整備、手順作成、関係者への周知について再確認するよう、事務局や特別講習講師に対応を求めた。
講習の実施前には、実施計画書や打ち合わせを通じ、修了考査の担当者にも熱中症対策を周知する。ファン付きウェアの着用を認める一方、学科講義や学科試験、室内訓練ではファンの音が周囲の受講者の妨げにならないよう配慮を求める。
サングラスは、目の既往症や健康被害を防ぐ観点から、屋外での着用を一律に禁止しない。一方、室内や視線を採点する科目、修了考査では着用を禁止する。学科講習や実技訓練、実技試験の待機中などには、必要に応じて飲料を摂取するよう促している。
退職自衛官に警備業への道
「警備員になろうとする者の講習」は、これから警備員を目指す人が警備会社に就職する前に、警備業務に必要な知識と技能を学び、資格取得を目指す特別講習だ。
自衛官を対象とした取り組みは2009年度から北海道警備業協会(𠮷田浩儀会長)で始まり、その後、実施を始めた宮城県警備業協会(後藤公伸会長)、警備員特別講習事業センターと合わせて25年度までに計1088人が受講した。長年にわたり、退職後の進路を考える自衛官に、警備業で働くための学びの機会を提供してきた。
講習は貴重品運搬警備業務2級と施設警備業務2級で実施しており、開催に当たって、自衛隊の方面総監部や援護部門などと開催時期、会場などを事前に調整している。自衛隊施設を会場に実施した例もあり、退職予定者が受講しやすい環境を整えながら警備業務に必要な専門知識と技能を身に付ける機会をつくっている。
北海道警協では全警協、防衛省との連携に関する通知を踏まえ、この講習を退職予定自衛官の警備業への就職を後押しする取り組みの一つに位置付けている。7月1日に開かれた全国専務理事・専任事務局長会議では、協会の森敏彦専務理事が業界説明、インターンシップ、任期制自衛官向け研修への講師派遣などの取り組みを紹介した。
定年退職を3年後に控えた自衛官への業界説明は、16年から札幌商工会議所と連携して実施している。北海道各地から集まる退職予定者に、警備業の仕事内容や職域を伝え、退職後の就職先の一つとして紹介している。
任期制自衛官を対象とする業界研修にも講師を派遣し、若くして自衛隊を退職する隊員に、警備業への入職を呼び掛けている。
警備業務を実際に体験するインターンシップでは、25年度に警備会社2社が計11人を受け入れた。自衛隊札幌地方協力本部と受け入れ会社が直接調整する体制ができており、新たに受け入れを希望する会社がある場合は、協会が両者の連携を仲介する。
協会では、業界説明や就業体験と講習を結び付け、警備業を知る段階から実際の仕事に触れる機会を作ることで、資格取得を目指すまでを一体的に支援している。25年度の講習では、貴重品運搬警備業務2級と施設警備業務2級を計58人が受講し、このうち50人が自衛官だった。
退職後もそれまで暮らしてきた地域に残ることを希望する自衛官にとって、警備業は就職先の一つとなる。講習で専門知識と技能を身に付け、資格取得を目指すことは、就職に向けた準備だけでなく、就職後に担当できる業務を広げることにもつながる。
今後は、警備需要の拡大や処遇改善に向けた取り組み、資格を生かしたキャリア形成、女性の活躍、AIの導入などを伝え、警備業の将来性を発信していく考えだ。
実技・教本見直しへ
2025年度の特別講習は受講者1万4262人のうち1万478人が合格し、合格率は73.5%だった。年代別の受講者数は20〜29歳3128人、50〜59歳3122人、40〜49歳2965人、30〜39歳2884人だった。
合格率は20〜29歳が81.7%、30〜39歳は80.7%と8割を超え、40〜49歳76.2%、50〜59歳68.7%、60歳以上53.3%だった。25年度の「警備業の概況」によると、60歳以上の警備員は28万2509人と警備員全体の47.3%を占める。特別講習の受講者1万4262人のうち、60歳以上は1961人、全体に占める割合は13.7%となっている。
警備員特別講習事業センターでは26年4月から交通誘導警備業務2級の実技講習で車両を使わない内容に切り替えた。こうした見直しをさらに進め、幅広い年代が挑戦しやすい講習とするため、教本や実技内容、実施マニュアルの見直しを進めている。身体的な負担に配慮し、年齢や性別、障害の有無にかかわらず取り組みやすい内容への転換を図る。
主な見直し項目は、(1)負傷者搬送など、受講者同士が向き合って身体に触れる相対動作を必要としない実技への転換(2)現在の警備業務に合った実技への切り替え(電話機や無線機の使用など)(3)室内でも実施できる講習内容の拡充と設営のコンパクト化(4)採点表・採点基準の見直し――など。
将来的には、広い会場を必要としない実技内容に改め、利便性の高い場所で開催する“駅前講習”の実現を目指す。受講者が参加しやすくなるとともに、会場確保に苦労してきた協会側の負担軽減にもつなげる。
相対動作の縮小は、受講者同士を組ませること自体を減らす狙いがある。LGBTQ(性的指向や性自認が多様な人)の受講者や男女の別など、組み合わせへの配慮が必要な場面を減らすほか、感染症対策でも効果がある。会場面でも、男女別のトイレしかない場合に多目的トイレを案内するなど、都道府県警協によっては受講者の事情に配慮した運用を行っている。障害のある受講者も増えており、取り組みやすい実技内容や受講環境の整備を検討している。
見直し内容は、講師研修会やブロック講師研修会、映像による研修などを通じて周知する。国家公安委員会に相談しながら、準備が整ったものから27年度中の講習に一部導入を目指す。
学科講習についても、事業センターが作成する講義映像を活用したeラーニングの導入に向けて準備を中。本人確認の方法などを、講習カリキュラムと合わせて今後詰めていく方針だ。


