特集ワイド 警備業「概況」を読む
早川正行氏 「生活安全産業」の考察
警察庁が毎年公表する「警備業の概況」は、業界の現状がさまざまな数字で示されている。7月に公表された2025年12月末現在の「概況」によると、業者数も警備員数も過去最多となった。警備業界関係者は「概況」のデータをどのように読み解くか。元神奈川県警備業協会専務理事の早川正行氏、日章警備保障(東京都新宿区)代表取締役の小林多喜氏に寄稿してもらった。
警備業は、2003年の犯罪対策閣僚会議で策定された「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」や「世界一安全な日本創造戦略」の中で、国民の自主防犯を補完し、国民生活の安全を支える「生活安全産業」に位置付けられ、育成・活用が政府の方針として明記された。
警察庁がまとめた「警備業の概況」は、同年以前から公表されていたが、生活安全産業の位置付けと共に、警備業の育成・活用に向けて内容の充実が図られている。生活安全産業の意味を再確認する機会として「概況」を基に考察してみたい。
25年の「売上高」は3兆5056億円である。全国警備業協会(村井豪会長)が実施した調査に基づくもので、回答したのは5210業者。23年末から調査方法をウェブ調査に変更、回答業者数は減少したとみられる。
売上高が1兆円を超えたのは1990年であり、2兆円を超えたのは97年、3兆円を超えたのが03年である。15年は3兆3546億円だった。
公共工事設計労務単価が右肩上がりで推移し、社会保険の加入を加味した警備料金の交渉など、業界を取り巻く環境は改善されてきたにも関わらず売上高は3兆円を超えてから、ほぼ横ばいである。調査に回答しなかった会社の売上高を加えるなら相当の金額にのぼるものと推定されるが、警備業の商品価値を的確にセールスすることのできる営業マンの力量は一層必要であると思う。
いわゆる「4条業者」(警備業法第4条に基づき都道府県公安委員会の認定を受けた業者)は25年12月末現在で1万949社である。1万社を超えたのは20年からで、以来、4条業者は増加の一途をたどっている。
警備員500人以上の業者は136社で、全体の1.2%である。警備保障タイムズが毎年12月に発表する警備業の売上高ランキングの100社はこの規模の業者であると思われる。警備員20人未満の業者は6216社で56.8%と約6割に及ぶ。M&Aによる業界再編が唱えられる所以である。
営業所を10以上設けている警備業者は116社、全社の1%にすぎない。1営業所のみの警備業者は9219社、実に84.2%である。業界の2極化の構造が浮き彫りになっている。
警備員数が50万人を超えたのは2008年だった。微増を続け、22年に減少に転じたが23年から回復、25年12月末現在で59万6985人と大きく増加している。人手不足の中での増加は注目に値する。「警備員60万人時代」が視界に入った。
しかし、年齢別で見ると一般社会では定年に達している60歳以上が47.3%と約半数に及ぶ。15年には40.7%だった。
“生涯現役”が唱えられる時代、高齢者を雇用する社会的意義に注目し、教育、労務管理、健康管理などの取り組みをさらに強化する方策が重要である。
女性警備員は、4万5304人で全警備員数の7.6%を占める。08年は5.5%、15年は5.8%、少しずつ増えてきた。
25年の機械警備業者は512業者で、前年に比較し30業者(5.9%)減少した。機械警備業者数は、02年の911社をピークに年々減少している。半面、機械警備の対象施設数は年々増加し、25年は352万5422施設となっている。
機械警備業者数がピークとなった02年の対象施設は116万4542施設。25年は約3倍となった。近年、社会問題となっているトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)による侵入強盗などの社会不安もあり、警備サービスを利用する意識は、さらに高まるものと思われる。
25年の行政処分は129件(認定取消1、営業停止12、指示116)であった。認定取消処分1件、営業停止処分12件を見ると、悪質な警備業法違反が行われていることに大きな危惧を感じる。行政処分はゼロが理想であり、警備会社のコンプライアンス部門の強化が望まれる。
小林多喜氏 業界の問題点を内包
警備業者数、警備員数、売上高、いずれも堅調に増加していることは業界として喜ばしいことだと思う。
とはいえ、この「概況」は、さまざまな問題点を包含していることを示している。
10年前の「平成27(2015)年における警備業の概況」と比較してみると、警備員の在籍年数は「1年未満」と「10年以上」の割合のみが増加し、1〜10年未満の割合が減少している。早期退職者が増え、一方で定着した警備員は年齢を重ね、高齢化につながっている。
半面、いわゆる“働き盛り”である中堅層の空洞化がさらに進行していくなら、警備業務の練度などが全体として低下してしまうのではないかと危惧を感じている。
定着が進まない原因としては、職場環境の課題もさることながら、物価上昇の中で家族も含めた生活を支えていくだけの収入を得づらいことにあるように思える。
警備員の年齢は、30歳未満の若手の割合が微増となった。特筆すべきは70歳以上の割合が2015年の8.44%から21.61%と跳ね上がっていることである。完全に“高齢者の雇用受け皿”産業となっている状況が浮き彫りにされている。
女性が占める割合は、5.8%から7.6%に上がっている。少子高齢化の時代において、高齢者と女性の雇用拡大が進んでいることが示されている。
近年は、警備員の社会的地位の向上、他職種との賃金格差の解消、エッセンシャルワーカーとしての認知度アップなどが取り組み課題となっているが、果たして達成することはできるのだろうか。ある種の危機感すら感じる。
高齢者の特性に配慮したエイジフレンドリーな職場環境の構築を一層進めるとともに、若手の有能な人材の確保と育成、定着促進に業界としてこれまで以上に取り組む必要があると痛感する。
警備業務区分別の4条業者の数は、10年前と比して2号業者のみが突出して増加している。
「警備業の概況」からは警備業務区分ごとの警備員数は読み取れないものの、業者数の推移を見る限り、増加している警備員の相当数が2号業務に就いているものと推測できる。
これは、明らかに2号業務の受注単価が上がっており「稼げる仕事」となっている一方、1号や3号業務の価格転嫁は必ずしも進んでおらず、参入に値しないなどと捉えられているためではないだろうか。
機械警備について、専従警備員1人当たりの対象施設数は、2021年が121か所のところ25年は130か所と徐々に増加しているが、15年の89か所と比べると、約1.5倍となっている。
機械警備に従事する警備員の装備などのDX化が進んでいるために可能となっているのだとは思うが、一方で、担当する警備員の負担が過剰になると交通事故など労災事故の増加や、発報時の到着遅延などにつながるのではないかと危惧する。


