特集ワイド 「価格転嫁」進めよう
中小警備会社などが持続的な賃上げや職場環境の改善を図るための原資を確保する上で、労務費などのコスト上昇分をいかに取引価格に転嫁できるかが課題となっている。中小企業庁が行った直近の調査によると、企業の価格転嫁率は50%台前半にとどまり、「道半ば」であることが改めて浮き彫りとなった。官公庁を含む発注者、そして受注者に取り組みの推進が求められている。
転嫁率54.2%
国は2021年9月から、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」に設定。価格改定を半期に一度、10月と4月に行う企業が多いことからその前月に定めている。
同月間で中小企業庁は、受注側の中小企業を対象にフォローアップ調査を行っている。10回目の月間となった26年3月の調査では6万9625社から回答を得た。回答から抽出された発注企業は延べ9万1233社となった。
調査結果によると、価格交渉が行われた割合は90.7%。前回調査(25年9月)の89.4%から1.3ポイント増加した。一方で、発注企業からの申し入れによって価格交渉が行われた割合は31.5%で、前回から3.1ポイント減少した。
コスト上昇分をどれだけ取引価格に転嫁できたかを表す価格転嫁率は平均54.2%。前回の53.5%から0.7ポイント増にとどまった。中企庁は「全体として改善傾向にあるが、まだ道半ばだ」としている。
価格転嫁率が「10割」と回答した企業は27.2%で、「7〜9割」21.8%、「4〜6割」10.8%、「1〜3割」24.1%、「全く転嫁できなかった」16.0%。前回調査から大きな変化はなかった。
全額転嫁に至らなかったケースの発注企業からの説明状況は、「納得できる説明があった」63.8%、「説明はあったが、納得できる内容ではなかった」12.4%、「説明はなかった」23.9%だった。
コスト別の価格転嫁率も前回とほぼ同じで、「原材料費」55.7%、「エネルギー価格」48.9%、「労務費」50.0%となった。
中企庁は、価格転嫁率の業種別ランキング(1〜32位)を公表。今回のランキングには新たに警備業とビルメンテナンス業が追加された。
警備業は、発注企業集計で22位の50.5%(コスト別=原材料費42.0%、エネルギー価格38.6%、労務費49.7%)。受注企業集計で19位の51.5%(コスト別=原材料費39.5%、エネルギー価格40.1%、労務費52.6%)。
価格転嫁率が「10割」との回答は18.3%で、「7〜9割」19.4%、「4〜6割」9.9%、「1〜3割」23.6%、「全く転嫁できなかった」13.3%、「価格転嫁不要」15.6%だった。
調査に回答した警備会社からは「人件費の上昇を反映した価格改定が認められ、賃金、人材の確保につながった」との一方、「発注側が値上げ交渉に応じてくれず、一方的に価格を決められている」といった声が寄せられた。
ビルメンテナンス業は、発注企業集計で31位の40.2%、受注企業集計で26位の45.3%と警備業より低かった。
中企庁は、価格転嫁率の都道府県別ランキングも公表。1位と最下位では最大26.2ポイントの差があった。発注企業、受注企業ごとの所在地集計で、いずれも上位3位に入ったのは北海道と島根、下位3位になったのは鳥取と宮崎だった。
官公需「加速化プラン」
政府は今年4月、「官公需における価格転嫁・取引適正化加速化プラン」を策定した。
官公需とは、官公庁が民間に発注する警備業務や工事など。加速化プランは、物価や最低賃金の上昇が続いている中、価格転嫁・取引適正化を徹底し、中小企業の賃上げ原資の確保を図るために策定した。
プランでは、発注時の予定価格に原材料費、エネルギー価格、労務費の最新実勢価格を反映させることを明記。「完全実施」の期限について、国の機関は2026年度末まで、自治体(都道府県、市区町村)は27年度末までを設定した。契約期間中のコスト上昇に誠実に対応することも明記した。
中小企業庁が26年3月時点で行った調査によると、官公需での価格転嫁率は48.4%。前回調査(25年9月)の52.1%から3.7ポイント低下した。取引内容別の転嫁率は「工事の請負」48.7%、警備など「役務の提供」47.6%、「物品の納入」48.9%でいずれも前回を下回った。
夜間警備 契約額増加
地方では、官公需が経済に与える影響が大きい。
総務省は、全国の自治体が26年度に発注した庁舎の夜間警備や清掃、学校給食などの契約額について、物価や人件費の上昇に伴う前年度からの増加率を調査した。
それによると、庁舎夜間警備の契約額の増加率は都道府県7.5%、指定都市7.1%、市区町村6.2%。物価変動に応じて契約額を変更する「スライド条項」の庁舎夜間警備の導入割合は都道府県40.4%、指定都市36.8%、市区町村22.8%だった。
入札制度改善進む
加速化プランでは、低入札価格調査制度、最低制限価格制度が未導入の自治体に対し、いずれかの制度を27年度末までに導入することも求めた。
両制度は不当に安い価格による契約を防ぎ、適切な履行や品質を確保することが目的。総務省が26年4月時点で行った調査によると、警備業務で両制度、またはいずれかの制度を導入している自治体は、都道府県42(前年35)、市区町村468(同339)で着実に増加。未導入は都道府県5、市区町村1273となっている。
総合評価方式も拡大
政府は官公需法に基づき、「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」を年度ごとに定めている。
26年度は、国の機関が発注する案件で中小企業と契約する割合目標を61%(前年度と同率)に設定。金額ベースでは6兆4572億円となった。
26年度の基本方針には、価格以外の要素(技術力、履行実績、地域貢献度など)も踏まえて落札者を決める「総合評価方式」を警備業務の入札で拡大させることや、年度中の最低賃金改定に合わせて警備契約額を見直すことが明記された。
「全警協リーフレット」活用を
全国警備業協会(村井豪会長)は、作成したリーフレット「警備業における適切な価格転嫁の実現に向けて」を適時更新し、会員企業に活用を呼び掛けている。全警協のホームページからダウンロードできる。
リーフレットは、内閣官房と公正取引委員会が2023年11月に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表したことを受けて24年2月に作成。指針で発注者・受注者に求めている12の行動や、最新の公表資料に基づくコスト上昇率(全国平均)の一覧などを掲載している。
発注者の行動は経営トップの関与や、定期的な協議の実施など。受注者の行動は積極的な情報収集や、価格転嫁の根拠に公表資料を用いることなどとなっている。
コスト上昇率のうち、26年3月から適用されている交通誘導警備員の公共工事設計労務単価は22年比で、有資格者のAが28.0%増、それ以外のBが29.5%増。26年4月から適用されている施設警備員の建築保全業務労務単価は22年比で、有資格者のAとBが34.1%増、それ以外のCが34.3%増。最低賃金やガソリン価格などの上昇率を上回っている。
「一方的な代金決定」取適法違反
公正取引委員会と中小企業庁は、今年1月に施行された「中小受託取引適正化法」(取適法、旧下請法)の周知を図っている。
約20年ぶりの法改正では、「協議に応じない一方的な代金決定」が新たに、委託事業者(発注企業)の禁止行為となった。中小受託事業者(受注企業)が価格協議を申し出たにもかかわらず、委託事業者が協議を拒否したり、値上げ要請に応じられない理由を説明しなかったりすると違法になる。
従来は資本金の額だけが法律の適用基準だったが、従業員数を追加。警備などの役務提供は、委託事業者が従業員100人超、中小受託事業者が同100人以下の取引で適用される。
法改正に伴い、委託事業者に対する指導・助言の権限が各業種を所管する省庁(警備業は警察庁)にも付与された。
公取委によると、買いたたきや減額などの取適法違反に対する「勧告」は25年度39件(前年度比18件増)で、平成以降最多となった。違反のおそれを含む行為への「指導」は8261件(同31件増)だった。
違反行為で原状回復を行った委託事業者は177社(前年度比28社増)、原状回復を受けた中小受託事業者は5165社(同2139社増)、回復額は25億5698万円(同12億419万円増)だった。


