特集ワイド カスハラ対策進む
更新日:8月20日
全警協の基本方針
働く人が、顧客などから暴言や理不尽な要求を受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の防止対策が進んでいる。警備業界では、全国警備業協会が基本方針を策定して以降、カスハラをテーマとした研修会を開く都道府県警備業協会が多くなった。大手警備会社は、従業員がカスハラを受けた際に通報や録音ができるアプリを開発。国や自治体も対策の強化を図っている。
全国警備業協会(村井豪会長)は2025年3月1日、カスタマーハラスメントに対する基本方針を策定した。
カスハラを「施設利用者、通行人、顧客、取引先から従業員に対し、その業務に関して行われる社会通念上相当な範囲を超えた言動で、就業環境を害するもの」と定義。「警備業者はカスハラと判断した場合、警備員をはじめとする従業員の安全確保と人権尊重のため、毅然とした対応を行う。悪質な場合は警察など関係機関と連携の上、厳正に対応する」と明記した。
カスハラに該当し得る行為例として身体的な攻撃(暴行、傷害)、精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)、差別的・威圧的・継続的・執拗・性的な言動、過度な謝罪要求、拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)、正当な理由のない金品・値引きの要求、不合理または過剰なサービス提供の要求、従業員を無断で撮影・録画・録音する行為、従業員の個人情報のSNSへの投稿を挙げた。
イラスト入り事例集
全警協は加盟員アンケートに基づき、カスハラの事例集も作成した。社内研修や取引先理解に役立ててもらおうと、14例をイラスト入りでまとめた。
事例は▽入館受付の混雑に腹を立てて机を叩き、警備員を怒鳴り散らす(施設警備)▽搭乗締め切り時間ギリギリに保安検査場に現れ、「乗り遅れたらどう責任をとるのだ」と罵声(空港保安警備)▽平時に非常通報ボタンを何度も押し、長時間拘束(機械警備)▽「通行止めは聞いていない」と警備員を怒鳴りつけ、車で詰め寄ってクラクションを鳴らす(交通誘導警備)▽混雑した駐車場で待たされていることに腹を立て、警備員の写真を勝手に撮影し、SNSに投稿(雑踏警備)▽ATM作業中に「なぜ使えない」「作業なんて夜にやれ」と暴言(貴重品運搬警備)――などを取り上げた。
事例集にはカスハラを受けた際の対応例も掲載。警備業で多い暴言型に対しては「行為をやめるように求め、後で事実確認ができるよう発言を録音する」、威嚇・脅迫型には「可能な限り複数人で対応し、状況に応じて関係機関と連携する」ことを例示した。
対応、事例をテーマに研修
都道府県警備業協会ではカスタマーハラスメントをテーマに研修を行っている。
埼玉県警備業協会(炭谷勝会長)は2025年8月27日、全国警備業協会の小澤祥一朗総務部次長を講師に招いて研修。全警協が作成した事例集や、カスハラ対策を企業に義務付ける法改正について説明を受けた。
千葉県警備業協会(加藤智行会長)は25年9月5日、カスハラ関連の著書がある津田卓也さん(キューブルーツ代表)を講師に研修した。就業者の初期対応のまずさがカスハラに発展しているケースが少なくないことや、クレームからニーズを読み取って顧客満足度を高めている事例について学んだ。
千葉警協の加盟員アンケートでは、回答企業の約2割がカスハラを受けたことがあると回答。業務別では交通誘導警備、施設警備の順に多く、暴言を吐かれたケースが多かった。影響として、従業員のメンタル・モチベージョンの低下や離職などがあったという。
新潟県警備業協会(野澤慎吾会長)は26年1月21日、協会外部理事の家老直貴さん(県暴力追放運動推進センター専務理事)を講師に研修を行った。「顧客は大切 立場は平等 優遇は違反」を組織内で共有することや、事実確認を前提にカスハラに対応することについて説明を受けた。
一方、愛知県警備業協会(金子慶太郎会長)は、協会機関誌「SECURITY AICHI」の26年1月号でカスハラに関する特集を組んだ。カスハラに該当し得る行為や、自社マニュアルを作成する上での「事前防止」「初動・事後対応」のポイントなどをまとめた。
通報・録音できるアプリ
従業員がカスタマーハラスメントを受けた際に通報や録音ができるアプリを開発――。セコム(東京都渋谷区、吉田保幸社長)は、7月の発売に向けてアプリの実証実験を進めている。使いやすさに重点を置いている。
アプリはカスハラ発生時に、iPhoneや腕時計型端末のApple Watchから、あらかじめ登録した上司にワンタップで通報。同時に音声の録音を開始する。
上司は、通報した従業員の位置情報や音声をリアルタイムで把握でき、迅速な対応を取ることができる。
音声データはクラウド上で保管。事実確認のための聞き取りの負担が軽減されるとともに、データに基づいた客観的な状況分析や今後の対応策に生かすことが可能となる。
昨年10月から行っている実証実験では、利用見込み客にアプリを実際に使ってもらい、感想を寄せてもらっている。実用化に向けて、緊急時に操作を迷わないUI設計(ユーザーインターフェースデザイン)や相手を刺激しないための配慮(操作時の音・デザイン)、カスタマイズできる設定、セキュリティーチェックの仕組みについて改善を進めている。
防止指針を策定
労働施策総合推進法の改正により、カスタマーハラスメント対策が10月1日から、事業者に義務付けられる。それに伴い、厚生労働省はカスハラ防止指針(同日から適用)を策定。2月26日に公布した。
防止指針では義務事項として「方針の明確化と周知」「相談体制の整備」「事後の迅速・適切な対応」などを定めた。指針の簡易版リーフレットを同省ホームページに掲載している。
策定過程で有識者からは「建設的な対話が成り立たない場合、早めに第三者が介入することが重要」「人事部門のない中小企業が研修に利用できる、テキストや動画の提供を検討すべきだ」といった意見が出された。
中小企業に「奨励金」支給
全国の自治体のトップを切って「カスタマーハラスメント防止条例」を制定した東京都は、都内中小企業(従業員300人以下)のカスハラ対策を支援する「奨励金制度」を設けている。奨励金は一律40万円を支給している。
支給対象は、条例施行の2025年4月1日以降にカスハラ対応マニュアルを作成し、(1)録音・録画環境の整備(2)AIを活用したシステムの導入(3)外部人材の活用――のいずれかを行った企業。
(2)では具体的なシステムとして「通話内容からトラブルを検知し、カスハラに該当する事例を記録」「音声の感情認識により、カスハラに発展しそうな通話を自動で管理者にアラート通知」などを例示。(3)では「非常通報時の警備員駆け付けサービスを契約」「常駐警備員の配置」などを例に挙げている。
奨励金の支給規模は25年度からの3年間で1万社。初年度の申請受付では1、2回目とも、予定期間より早く上限に達したため、前倒しで受付を終了した。
啓発動画を配信
東京都は、制作したカスハラ啓発動画の配信も行っている。
2025年8月に公開した「もしかしてそれ、カスハラかも?」(約15分)では、テレビアニメ「ちびまる子ちゃん」のキャラクターを活用。カスハラの該当例や与える影響を紹介した上で、「働く人にもお客さまにも思いやり」の大切さを伝えている。事業者、就業者、顧客向けのショート動画もキャラクターを活用して制作、配信している。
25年10月に公開した「防止対策の実践に向けて」は25分30秒に及ぶ。動画では事業者が取り組むこととして、相談窓口の設置や、現場での初期対応の方法・手順・報告ルートを盛り込んだマニュアルの作成などを紹介。就業者の良い対応例として▽相手の言い分をまず受け止め、話を最後まで聞く▽丁寧な言葉づかい▽事実やルールを冷静に伝える――を、悪い例として▽不愛想、高圧的な態度▽慣れや油断による雑な対応――を挙げている。


